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高松高等裁判所 昭和39年(う)288号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を須崎簡易裁判所に差し戻す。

理由

先ず職権をもつて調査するに、本件起訴状には、公訴事実として「被告人は(中略)多数の右選挙の同村選挙人に対し、東津野村当別峠のトンネルが出来るようになつたのは塩見先生のお蔭である、又東津野村郷から天狗高原に通ずる林道が出来るようになつたのは山崎先生のお蔭である、この両先生が当選すれば今後もこのように東津野村の為になることをやつて貰える、東津野村を良くする為にはこの両先生に当選して貰わねばならんので、今度の選挙には、全国区は山崎斉と書き、地方区は塩見俊二と書いて投票せられたい旨を申し向け、もつて(以下略)」なる旨の記載と、罰条として公職選挙法二二一条一項二号の記載がある。ところで、右法条にいう利害関係は現在又は将来(過去を除外)における特殊の直接利害関係であることを要するのであるから、これを具体的に認識することの可能な程度に訴因を明確にしなければならないことはいうまでもない。しかるに、本件起訴状には、前記のように塩見俊二および山崎斉両候補の尽力のあつた過去の利害関係は具体的に掲げてあるけれども、将来の利害関係としては「このように東津野村の為になること」とのみ抽象的に記載するに止まつているのであつて、これでは、将来における利害関係が具体的にいかなる内容のものであるかを特定的に認識することができない。さすれば原審はすべからくこの点につき検察官の釈明を求め、訴因を特定した上で被告事件の審判を為すべきであるのにかかわらず、漫然本件被告事件について審理を終り、罪となるべき事実として起訴状記載の公訴事実と同趣旨の事実を認定しているのであつて、原審の訴訟手続には審理不尽の違法があり、その結果原判決の罪となるべき事実の判示をもつてしては、右同様利害関係の具体的内容を認識することができず、犯罪の構成要件に該当する具体的事実を窺知し得ないわけであつて、前記罰条に該当する事実の判示としては、理由不備の違法があるものといわねばならない。従つて原判決はこの点において既に破棄を免れない。

(裁判長裁判官加藤謙二 裁判官木原繁季 加藤龍雄)

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